2014年04月17日

環境と経済の両立 環境経済学から

環境経済学から(長文です)

外部性と外部不経済
環境と経済を結び付けるキーワードとして、「外部性」があります。 「環境」には値段がなく、市場もないため、 市場を通さずに資源の採取や生産活動ができてしまいます。 これを「外部性」と言います。

外部性があるために発生する問題が「外部不経済」です。 外部性があるために、発生した問題のコスト(費用)を、「社会的費用」と言います。

コモンズの悲劇

コモンズとは、共有地のことです。 コモンズの悲劇は、外部不経済の例え話として環境経済学に登場します。

「ある人が、共有地で自分の牛(羊とする解説もある)を放牧していました。 その人は、牛を無制限に増やしました。 そうしたら、その土地の草が増えるスピードが、牛が食べるスピードに追い付かなくなり、 牛が草を食べ尽くしてしまいました。 最終的には、誰もそこで牛を育てられなくなってしまいました。」、というお話が、 「コモンズの悲劇」です。

コモンズは、川の水や、漁場にも当てはまります。

心理学と環境倫理

「外部性があると、なぜ、問題が発生するのか?」、という疑問に対して、 経済学的に解決しようとするのが環境経済学です。 しかし、外部性があるために起きる問題は、人間の心のあり方にも原因があります。

環境経済学の中でも、心のあり方の議論がないわけではなく、 環境倫理 で議論されているようなことが取り入れられています。 しかし、経済学者らしく、利益を軸にした考え方になりがちな感じがします。

心のあり方への別なアプローチとしては、 社会心理学 や、 環境心理学 があります。

外部性の内部化

外部性があるために、環境に対して経済学的なコントロールができないと考えると、 その解決方法のひとつとして、「外部性の内部化」が出て来ます。 「内部化ができれば、経済系の市場の原理で、環境問題をコントロールできる。」、という説があります。 内部化の方法 は、いろいろなアプローチがあります。

市場の原理
経済学には「市場の原理」という考え方があります。 これは、「神の見えざる手」とも言われます。 「価値のあるものは高い。高いものはあまり売れない。」等の原理(?)です。 この原理によって、市場のあるべき姿は自然に決まるという考え方をします。 この考え方は、政治的な力を不要とします。

市場の原理の考え方が、環境経済学に持ち込まれ、 「内部化すれば、市場の原理がうまくはたらき、 そして、市場の原理がはたらけば環境問題は自動的に解決する。」、という説があります。 この説の場合、内部化のために環境に値段を付ける段階で経済学とは違う学問が必要ですが、 いったん値段がついてしまえば、 あとは市場の原理がすべてを解決してくれることになります。

内部化の方法

一口に「 外部性の内部化 」と言っても、いろいろな方法が考えられています。 共通して言えそうなことは、 「環境」を非常に単純なものと仮定したり、 ミクロな場面の話に限定することによって、議論が可能になっていることです。

治療には、その時その時で対処する対処療法と、 原因を根元から治す根治療法があると言われます。 内部化による方法は、どちらかと言うと対処療法です。 環境経済学 と言っても、 既存の経済学の枠組みは基本的に変えない方法ですし、 一部分をベストな状態にする方法(部分最適)ですし、 持続可能性のような時間軸への配慮が、あまりないからです。 その代わり、即効性はあります。

所有権を明らかにする方法

「環境は誰のものかがわからないから、好き勝手にできる。」ということに注目し、 誰のものかを明確にする方法です。 所有権は、他の方法で「対象者」を決める時にも問題になる話です。

環境倫理 が絡んでくると、環境に対する「権利者」に未来の人を含めますが、 未来の人のことを今の人が決めるという、妙なことをしています。

政府の介入による方法
• 環境税 : 汚染の原因を作っている人に「環境税」を払ってもらい、 浄化や処理の費用を負担させる。 また、無制限な汚染を抑制する。
「汚染の原因を作っている人」は、 生産者でもあるし、消費者でもあります。 税なので、徴収後に何に使うかが別問題としてあります。
• 補助金 : 補助金によって、環境対策を促進させる。

お金に換算する方法

値段がないことが、市場の仕組みが使えない元凶とし、 何とかして値段を付けてしまおうという方法です。

値段を見積もるプロセスは、「環境評価」と呼ばれることがあります。 環境評価では 「お金」という尺度 だけで、多様な環境や状況を表現しようとします。

CVM

CVM (Contingent Valuation Method : 仮想評価法)は、 アンケート で値段を決める方法です。 その値段が妥当かどうかを別にすれば、基本的に何にでも値段が付けられます。 例えば、「この景色の維持費は、年間でいくらまでが上限だと思いますか?」、という聞き方をして、 値段のないものに値段を付けます。

CVMに限ったことではありませんが、 アンケートは、「いつ・どこで・どうやって・誰に・何を聞いた」ということで、結果が変わりますので、 扱いの難しい方法でもあります。

経費の見積り

実際に修理や治療にかかった金額を元にして、値段を出します。 この方法は、心のダメージや、 お金の出しようがないものが含まれないという問題や、 化学物質の地球規模での拡散のように、広範囲なものはカバーできないという問題があります。

経済系と生態系の融合

経済系と生態系の融合は、主に、 エコロジー経済学・エントロピー経済学・生物経済学 で議論されています。 環境経済学 の中でも、 自然科学 の話題が非常に多いです。

経済系と生態系の融合は、 どちらかと言うと根治療法だと思います。 既存の経済学を根本的に見直そうとするからです。 とはいえ、言うのは簡単ですが、実行するのは非常に大変な方法です。

「経済系」は、社会でのお金の仕組みを指すこともありますが、 ここでの「経済系」は、「人間社会」と考えた方が、考えを進めやすいです。

経済系(人間社会)と生態系を、ひとつの大きな系(システム)と考えることによって、その実現が目指されています。 この大きなシステムの重要因子は、エネルギーや物質です。 エネルギーや物質の最適化を検討します。 この方法において、お金は、「最適化するための道具のひとつ」という位置付けになります。 ここが狭義の環境経済学の視点との、大きな違いです。

地球温暖化問題の話では、エネルギーシステムと、マテリアルシステムの両方が議論されるので複雑です。 主役は、炭素(カーボン)です。 炭素は、生物の体でも、化石燃料(石油・石炭・木材)でも主要な元素です。

エネルギーシステム

エネルギーは 生態系 と人間社会に共通した構成要素です。 そこで環境と人間社会を一括したシステムを考えて、エネルギーの流れを見る方法があります。 エネルギーの全体最適化を考えます。

エネルギーシステムでは、エネルギー保存則が重要ですが、保存則を考えるだけでは不十分です。 「 リサイクル 至上主義」みたいなことになってしまいます。 エントロピーやエクセルギー を考えることも重要です。



マテリアルシステム

物質(マテリアル)も、生態系と人間社会に共通した構成要素です。 そこで、 物質の循環 を見る方法もあります。 物質の流れは、「マテリアルフロー」と言われたりもします。

マテリアルフローに注目すると、 製造業で言えば、製造で発生する廃材や廃液も見逃さなくなります。 マテリアルフローとコストを分析する方法として、 マテリアルフローコスト会計(MFCA) があります。

環境プロデューサー石神が注目!
経済系と生態系のシミュレーション

経済系と生態系を一緒にしたシステムの性質を検証したり、 未来を予測するための シミュレーション としては、 システムダイナミクス があります。

システムダイナミクス
システムダイナミクス(System Dynamics)では、 ストック・フロー・コンバータ・コネクタの組合せだけで現象をモデル化します。 このモデル化で、フィードバックを含んだ微分方程式が作られます。 この微分方程式の時間的な変化の シミュレーション がシステムダイナミクスです。 システムダイナミクスは、連立した微分方程式のシミュレーションです。

高校生程度の数学の知識を組み合わせると、 自然現象や社会現象のシミュレーションができてしまうのが、 システムダイナミクスの魅力です。

実際、米国では高校で教えられているそうです。 (MITにかなり親切な教材が公開されているので本当なのでしょう。)

システムダイナミクスのやり方

ストック・フロー・コンバータ・コネクタを組合せて、 それらの間のルールを設定します (このプロセスは パス解析 でパス図を作る過程と似ています)。 すると、ソフトウェアがシミュレーション結果を出します。

試行錯誤を繰り返したり、高度なことをするには、 専用ソフトウェアが良いかもしれません。 しかし、微分方程式の 数値計算 を勉強した方なら、 自作ソフトでもある程度は試せると思います。

システムダイナミクスの特徴

イメージをつかむために、特徴をまとめてみました。
• フィードバックを含めることができる。
• 回帰分析 の係数が、時間に依存して変化する感じ
• 個々の要素間のルールを個別に設定できる

システム思考

システム思考は、Systems Thinkingの訳語です。 システムダイナミクスのモデリング部分 (現実を図式化する段階・シミュレーションの前に行う)だけを、 指しています。 思考法 として、システムダイナミクスから独立して扱われることもあります。


posted by いし at 17:41| Comment(0) | 発想力